かぶとたいぞうです。
これからお話することは、札幌のある立派な経営者から聞いた実話です。いい話なので多くの人にお伝えしたいのですが、実在する人の話なので、特定されないよう少しぼやかして書きます。
札幌の郊外に住む炭焼きのおかあさん
むかし、札幌の郊外に炭焼きで生活している女性が住んでおりました。
その女性は戦争でご主人を亡くし、女手ひとつで5人の子供を育てました。戦後の5児のおかあさんです。
おかあさんの家には以前から住み込みで働いている使用人のおじさんがいました。
そのおじさんが焼いた炭を、おかあさんはリヤカーに積んで、毎日札幌駅の近くまで運んで売りました。そして炭を売って得たお金で一家は暮らしていました。
おかあさんはクリスチャン
おかあさんはクリスチャンでした。おかあさんは仕事の合間によく教会へ行きました。
教会に行くといつもきまって、ある若い女性が熱心にお祈りしている姿を見ました。
はじめは「熱心な人だなぁ」くらいに思っていたおかあさんも、教会に行くたびにその若い女性が熱心に祈っている姿を見るので、ある日思いきって声をかけてみました。
毎日教会で祈る若い女性との出会い
「何をそんなに熱心にお祈りしているのですか」
若い女性はためらいながらも答えました。
「私は結婚してもう何年にもなりますが、私たち夫婦にはまだ子供がいません。どうか子供を授かりますようにと毎日祈っているのです」
若い女性がどれほど苦悩しているかを知って、おかあさんは気の毒に思いました。
「私には子供が5人います。戦争で主人を亡くし、5人も育てるのが正直言ってたいへんです。1人くらいお譲りしてもいいですよ。一番下の男の子ならまだ5歳だからきっとあなたになつくでしょう」
若い女性は言いました。
「ありがとうございます。お気持ちはありがたいのですが、5歳にもなれば既にものごころがついていると思います。兄弟もいるならきっと離れ離れになるのを嫌がると思います」
おかあさんの驚くべき提案
おかあさんは考えました。
「そうねぇ。困ったわねぇ」
考えていたおかあさんがとつぜん言い出しました。
「私はがんばれば、まだもう一人ぐらいは子供を産めると思います。産んで間もない子供ならきっとあなたになつくはずです」
若い女性は最初あっけにとられて信じ難い顔をしていましたが、おかあさんが本気なのを見てお願いしたい気持ちになりました。
現代なら信じられない話ですが、戦後間もなくのことです。
「本当にお願いしてもいいのかしら」
おかあさんは笑顔で力強く答えました
「任せてください。その代わり、男の子でも女の子でも文句は言わないでくださいね」
若い女性は目を輝かせながら答えました。
「もちろんです」
おかあさんはどうやって子供を産むのか
おかあさんはさっそく家に帰り、そのことを炭焼きのおじさんに話しました。おじさんはおかあさんに説得されて子供を作ることに協力しました。
約1年後。おかあさんは無事に男児を産みました。そして若い女性に赤ちゃんを引き取りに来るよう連絡しました。
大喜びで赤ちゃんを抱く若い夫婦におかあさんは念を押しました。
「今日からあなた達2人はこの子の両親です。どんなことがあってもこの子に本当の母親のことを話してはなりません」
若い夫婦は男の子を自分の子供としてかわいがり、子供はすくすくと育ちました。
6年後の事件
6年後。
その男の子が小学校に入学した時、両親はついに本当の母親のことを子供に打ち明けてしまいました。
若い両親は子供には正直に話しておいたほうがいいと思ったそうです。親子の仲が良かったので、本当のことを打ち明けても親子関係が悪くなることはないと信じていたそうです。
ところが本当の母親の存在を知ったその男の子は、本当の母親に会ってみたいと言い出したのです。
若い両親から事情を聞いたおかあさんは当惑して言いました。
「だからあれほど言ったじゃない。本当の母親の話を絶対にしてはいけないって」
その男の子は若い両親に連れられて、おかあさんの家に遊びに来ました。そして今後は両親の了解を得ていつでもおかあさんの家に遊びに来てもいいということになりました。
おかあさんの家に通う男の子
その男の子は育ての親に感謝しつつも、おかあさんの家に遊びに来ることが多くなりました。おかあさんの5人の子供もその男の子を優しく向かい入れました。
さらに5年。
小学校6年生になった男の子は、どうしてもおかあさんと一緒に暮らしたいと言い出しました。
おかあさんと暮らしたいと言う男の子
育ての親も良くしてくれているし、なんの不自由もないのですが、やっぱり本当の母親と一緒にいたいと言うのです。
育ての両親もお母さんも困りました。
結果として、その男の子はおかあさんと一緒に暮らし、時々育ての親である若い夫婦の家に遊びに行くということになったのです。今までと逆です。
立派に成長した男の子
おかあさんの上の子供たちはもうすでに社会人だったり大学生、高校生だったので生活にも余裕があり、男の子に勉強を教えたりめんどうもよく見てくれました。
その男の子は立派に成長して小さな会社を作りました。そして実の母親も育ての両親も大切にしました。
男の子は結婚して男の子を授かる
小さな会社の社長になった男の子は結婚して男の子を授かりました。
その男の子も立派に成長して父親の会社を引き継ぎ、会社を大きく発展し、大社長になりました。
その大社長が私にこの話を教えてくれた「立派な経営者」です。
炭焼きのおかあさんは、私にこの話を教えてくれた人のおばあちゃんだった
炭焼きのおかあさんは、彼のおばあちゃんです。そして若い育ての両親も彼のおじいちゃんとおばあちゃんです。
昔はそんなおおらかなことがあったのですね。そして小さなことを気にしない気質が立派な経営者を育てる素地になったのですね。
この話はその立派な経営者から直接お聞きした実話をなるべく忠実に書きましたが、お母さんの子供の人数などはうろ覚えであり、事実と違うかもしれません。しかし話の大筋は間違いないと思います。
気をつけて書いたつもりですが、万が一ご関係者のご迷惑になるようなことがありましたらメールにてお知らせください。
ごきげんよう。
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「カブとタイ」をいつもお読みいただき、まことにありがとうございます。
著者かぶとたいぞう拝。
記事のカテゴリー/タグ情報
かぶとたいぞう様、こんにちは。熟読いたしました。
今の時代では、他人に子ども産んでもらい育てる(しかもお互いにそれを約束する)ことなどほとんどあり得ない話ですが、そんなおおらかで優しい時代もあったのですね。
このおかあさんは夫を亡くされ炭焼き一筋でたくさんの子どもを育てられたとのこと。まずそれに頭が下がります。さらに人のために子どもまで産むなんて、普通の人にはできないことです。子どもの可愛さを知っていたからこそ、子どもが産まれない夫婦の悩みが痛いほど分かったのでしょうね。そして、どちらの両親も立派な人たちだったから、男の子も立派な社会人になれたんですね、色々と考えさせられました。
カズヒロ様
かぶとたいぞうです。
コメントありがとうございます。
読んでいただいてありがとうございました。この話は実話です。