かぶとたいぞうです。
北海道では、とても寒い時に「しばれる」という表現を使います。北海道を題材にした映画やテレビドラマでもよく出てくるの言葉なので、知っている人も多いのではないでしょうか。
我々北海道人は「しばれる」の語源も正確な意味も知りません。幼い頃から周りの大人が「しばれるねぇ」と言うから、これが「しばれる」ということなんだなぁと覚えたのです。言葉とはそんなものです。
「しばれる」は「しびれる」か「縛られる」か
でも、幼い私のイメージの中では、「しばれる」は「しびれる」に似たニュアンスがあり、また「縛られる」という感じもありました。つまり、寒くて手足が「しびれる」状態で、「縛られる」ように体が動けなくなるようなイメージでした。
少し大きくなって、大人の真似をして試しに「しばれるねぇ」と言ってみたら、「こんなもんじゃしばれるうちには入らない」と言われ、「ああ、しばれるとはもっと寒い時に言う言葉なのか」とさらに認識を深めました。
北見の「しばれる」とは
大人になって冬に仕事で道東の北見に行きました。その日はとても寒く、気温は日中でもマイナス20度近くまで下がりました。
私に対応してくれた北見の営業所長が言いました。
「今日はしばれますね。でも北見では昔はもっと下がったんですよ。30度までいくこともよくありました。今日は20度ですから昔の感覚じゃまだ温かいほうです。北見では本当にしばれるというのは、30度までいったときです」
同じ北海道でも北見はレベルが違う
マイナスを付けずに20度とか30度と言う所長の言葉を聞いて、北見は札幌とは表現からして違うんだなぁ、北見はレベルが違うなぁ、と感心したのを覚えています。
その日は最終列車で札幌に帰るため、仕事が終わった後は北見の繁華街で時間をつぶしました。正確な時刻は忘れましたが、たしか19:00くらいに北見を出発して、夜中に札幌に到着する列車だったと思います。
「しばれる」北見の夜
札幌に着いたら12:00くらいになるので、北見で食事をしてから帰ろうと思いました。北見には美味しい焼肉屋がたくさんあります。焼肉屋で食事をしながら軽く一杯やりました。
焼肉屋に行く道中もすでに気温はマイナス22度になっていましたから、まさしく手足が「しびれる」感じがして、寒さに「縛られる」思いでした。
食事が済み、焼肉店から北見駅まで歩きました。タクシーに乗っても良かったのですが、ほろ酔い気分で「しばれる」北見を歩いてみたかったのです。
「しばれる」北見の夜を歩いたことを後悔した
歩き始めて5分で後悔しました。焼肉店に頼んでタクシーを呼んでもらえば良かったと思いました。
雪もふらない張り詰めた空気の北見の夜は、その時すでにマイナス30度近く。
手足が「しびれる」とか「縛られる」のレベルではありませんでした。
「痛い」のです。
本当の「しばれる」の怖さ
ほお、みみ、鼻、外気に触れるところは全て痛いのです。激痛です。火傷をした感じです。
手袋をはいていましたが(北海道では手袋ははくと言います)、少し出ていた手首もヒリヒリと痛みます。真っ赤です。
鼻毛はすっかり凍りついてしまい、息を吸うたびに極寒の外気が直接入ってくるので喉も肺も痛いのです。息を思いっきり吸えません。チョビチョビ吸うのが精一杯です。
このままでは死ぬかもしれない
このままでは死ぬかもしれないと思って、途中の駅前通りにあったお土産屋に入りました。
何も買わないのに時計を見ながら店内をうろうろしている私を見て、店番のおじいさんが「今日はしばれるねぇ」と言って理解を示してくれました。
北見駅まで歩いてあと10分。もうそろそろ出ないと間に合わないと思い、お土産屋を出て、北見駅まで小走りで移動しました。ところが走ると皮膚の激痛のみならず、喉も肺も痛くなるのです。
列車に間に合うか
途中のコンビニにほんの1分ほど入ってまた走り、ギリギリセーフで列車に飛び乗りました。
列車が動き始め、流れてゆくホームの風景を見ながら、途中にお土産屋とかコンビニがなかったら今頃は死んでいただろうなと思いました。
昔の人はどうしていたんだろうとも思いました。
これが私が体験した北海道の本当の「しばれる」です。
インドの暑さも「しばれる」か
ちなみに、それから何年か後に私はインドのデリーで記録的な暑さに遭遇しました。その年はインド人もビックリの記録的な暑さで、ほぼ50度まで上がりました。
その時も水を買うため必要に迫られてちょっとだけ外に出ました。驚いたことに、皮膚も、喉も肺も、北見で体験したのとまったく同じ痛みでした。
人間はマイナス30度とプラス50度でまったく同じ痛みを感じることを知りました。いずれも「火傷」の激痛です。
「寒い」とか「暑い」ではなく「痛い」のです。
ごきげんよう。
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著者かぶとたいぞう拝。
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