かぶとたいぞうです。
私が初めて札幌の焼きとり屋に入ったのは、まだ二十歳になるずっと前でした。
ある日、友達と3人で「焼きとり屋に入ろうか」と相談して入りました。
よくテレビドラマなんかに出てくる「焼きとり屋」はいかにも大人の感じがして、前から一度入ってみたかったのです。
若い頃初めて入った札幌の焼きとり屋
1月下旬でした。3人は親からもらったお年玉を握りしめて、生まれて初めて「焼きとり屋」の暖簾をくぐったのです。
「焼きとり屋」に入ると壁に品書きが貼ってありました。
- 豚セ
- 鳥セ
- 豚ハツ
- 豚タン
- 豚レバー
- ガツ
焼きとり屋なのに豚ばっかり
「焼きとり屋」だと言うのに鳥っぽいのは「鳥セ」しかありません。友達と互いに目を見合わせました。
私は勇気を出して店主に聞きました。
「鳥セって何ですか?」
店主はこっちをチラッと見て、無愛想にひとこと言いました。
「鶏の精肉」
北海道の焼きとり屋の鶏肉は鳥セだけ
私はついでに聞きました。
「ガツって何ですか?」
店主は下を見たまま忙しそうに答えました。
「豚の胃」
そして店主はこっちを見て言いました。
「あんたたち飲み物は何にするの?」
やはり無愛想でした。
すべての串ものを頼んでみた
私達3人は適当に飲み物を頼んで、とりあえずメニューのすべてを頼んでみようということになりました。これ以上あんまり質問しないほうがいいと思ったからです。
「全部3本ずつ下さい」
「味は塩?、たれ?」
「全部塩でお願いします」
「はいよ」
出てきた「焼きとり」は豚づくし
出てきたのは鳥セ以外すべて豚づくしでした。
豚セは串に豚の精肉と玉ねぎが交互に刺さっていました。脂が多く、若い私達には美味しかったです。
鳥セは普通の鶏もも肉の小間切れを串に刺したものでした。
豚のタンもハツもレバーもガツもひと切れひと切れがゴロンと大きく食べごたえがありました。
どうして「焼きとり屋」なのに豚肉の串ばかりなんだろうか
勘定を済ませて店を出た私達3人は、さっそく思っていたことを口々に言い出しました。
「焼きとりって鳥とは限らないんだな」
「そうそう、俺もそう思った。鳥でないのにどうして焼きとりって言うのだろうか」
「なんかの隠語かなぁ。ほら、猪肉のことをボタンって言うだろ。あれと一緒で豚でも牛でも鳥って呼んでるんじゃないか。動物の肉は忌み嫌ったと言うから。昔は」
「馬肉のこともサクラって言うしな」
「へぇ〜そうなのかぁ」
私達の勝手な解釈でした。
その後も何回も札幌の焼きとり屋に入りましたが、どこも同じようなメニューでした。
東京の焼きとり屋で驚いた
それから何年も経って、東京の大学に行くようになりました。始めて入った東京の焼きとり屋でまた驚きました。東京の焼きとり屋はすべて鶏肉だったのです。
- 精肉
- ネギマ
- セセリ
- ハツ
- レバー
- 砂肝
- 手羽先
東京の焼きとり屋の精肉は何の精肉か
店の人に聞きました。
「精肉ってなんの精肉ですか」
店の人はけげんな顔をして答えました。
「うちは焼き鳥屋だから。鳥に決まっているでしょう」
私はたて続けに聞きました。
「ハツもレバーも鳥ですか?」
店の人は首をかしげながら答えました。
「何を聞きたいのかよく分からないけど、ニワトリの肉ですよ。うちは焼き鳥屋なんだからニワトリの肉以外は無いですよ」
だんだん語調が厳しくなってきました。
東京の焼きとり屋は鶏肉ばかりなので驚いた
「ごめんなさい。私は北海道なんですが、北海道の焼き鳥屋は豚肉が多いものですから」
店員は呆れた顔になりました。
「はぁ?それじゃ焼き鳥でなくて焼き豚でしょう」
店員はもうそれ以上私にはかまってくれませんでした。
どうして北海道は豚肉なのに焼きとりなのか
どうして北海道だけ、焼きとり屋で豚肉を串に刺して焼いているのか。
その答えがわかったのは社会人になってからでした。
簡単に言うと次のような事情です。
昔、牛肉が高かった時代、北海道では養豚が奨励されました。北海道のあらゆる地域に豚舎が建てられ、豚肉が安く流通するようになりました。豚肉は豊富になり、精肉工場から豚の内臓肉がたくさん出ました。
そのあり余った豚肉と豚の内臓、それとやはり当時北海道内のあちこちで栽培されていた玉ねぎを組み合わせて北海道独自の「焼きとり」が生まれたというのです。
北海道では、どうして「焼き豚」と呼ばなかったのか
どうして「焼き豚」と言わないで「焼きとり」と呼んだのかは分かりません。
察するに、もともと「焼きとり屋」は普通にあって鶏肉を焼いていたのでしょう。その「焼きとり屋」で豚の串焼きを扱うようになって、そのうちに豚串が人気となって鶏肉は鳥セだけになってしまったのでしょう。それ以外のメニューは豚の串焼きばかりになってしまったのではないでしょうか。
北海道の焼きとり屋は豚串がメイン
そんな事情で北海道の「焼きとり屋」は焼き鳥屋なのに豚の串焼きがメインになったのだと思います。
新しくできた店も古い店に習って豚肉串を多く取り揃えたのだと思います。
北海道独自の言い方ですが、居酒屋などいろいろな料理を出している店で鶏串を頼む時は、「焼き鳥の鶏を下さい」と頼みます。豚を頼む時は「焼き鳥の豚を下さい」と頼みます。道外の人が聞いたら変ですよね。
北海道では「焼きとり」は串焼きの総称
北海道では「焼き鳥」と言えば串焼きの総称なのです。
だから北海道で「焼き鳥の盛り合わせ」を頼むと、今でもたいていの店では出てくる串の半分以上が豚肉の串です。野菜串やきのこ串、ウィンナーの串が出てくる店もあります。それもまた「焼きとり」なのです。
さらに今では札幌の焼きとり屋には、「ラム串」「牛肉串」「鹿肉串」などバラエティーに富んだ豊富な「焼きとり」があります。
それもまた北海道っぽくて楽しくていいじゃありませんか。それを「焼きとり」と呼んでいいのかどうかは別として。
ちなみに美唄(びばい)の鶏モツ串など、昔から鶏に特化した焼き鳥屋も北海道にはあります。しかしそれは少数派です。
多数派はやぱり豚がメインです。室蘭焼き鳥は豚の焼き鳥で有名になりましたが、豚の焼き鳥は室蘭に限らず道内各所にあります。
ごきげんよう。
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著者かぶとたいぞう拝。
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