映画グリーンブックを見て:私の南部の体験と英語のニュアンスと翻訳と

かぶとたいぞうです。

映画「グリーンブック」を見ました。とてもいい映画でした。絶対におすすめします。

英語の勉強のためにと思って、なるべく字幕を見ませんでした。日本語には翻訳できない微妙なニュアンスがあるからです。

私は、まだ黒人差別が残っていたころの米国南部を旅したことがあります。

あれは、私がまだ学生だったころです。米国への初めての旅でした。





私の米国南部での被差別体験

南部のある町で、バスターミナルの待合室に座ってバスを待っていたときのことです。

待合室には、私の他に黒人が10人ぐらいいました。ハンバーガーを食べている中学生ぐらいの男子、20才ぐらいの青年のグループなどでした。

とつぜん太った白人の女の人がやって来て、椅子に座っている黒人をみんな立たせました。太った白人の女は大声でわめき散らしています。当時私はまだ英語が苦手で、何を言っているのかさっぱり分かりません。

ハンバーガーを食べていた中学生は食べるのをやめて席を立ちました。他の黒人もみんな一斉に立って手を後ろに組んでます。そして黙って下を見てうなだれるのでした。

私はその光景を見ながら黙って座っていましたが、太った白人の女は私のところにもやって来てわめき散らします。

何を言っているのか分かりませんが、立てと言っているようです。どうして立たなければならないのか分かりませんでしたが、太った白人の女はすごい形相で私に指をさし、私の座っている椅子を何回も蹴飛ばしたり、テーブルをたたいたりします。

ほんの短い時間でしたが、私の頭の中に、いろいろな考えが駆け巡りました。

太った白人のおばさんはたった1人です。若い黒人は10人もいます。どうしてここにいる黒人たちは黙っておばさんの命令に従っているのか。そんなにこのおばさんが怖いのか。きっと黒人たちは抵抗できないのだろう。それは長年の習慣でそういうことになっているんだろう、しつけられたと言うか、飼いならされたと言うか。諦めているというか。

私は太った白人のおばさんを正視して「うるせぇ、デブ!」と大声でののしりました。腹が立ったと言うより、「オレは飼いならされないぞ!」という反抗でした。

南部の白人たちにとっては、我々日本人も黒人の一種なのだと思います。

デブは半狂乱になって外へ出て行きました。その時の周りの黒人たちの表情は今でもはっきりと覚えています。

「助かった」でも「やった」でもなく、「大丈夫かなぁ」「余計なことをされた」みたいな困惑の表情でした。

私は今日でこの町を離れますが、彼らはこれからもこの町で暮らさなければならないのです。

南部の黒人差別の根深さを知りました。

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グリーンブックに書かれた言葉のニュアンス

さて、映画の話に戻ります。

グリーンブックはこのような時代の映画なのです。いや、私が体験した時代より、もっと前なので、もっとひどかったでしょう。

映画の半ばで、シャーリーとトニーが別々のホテルに泊まる場面があります。ガイドブック「グリーンブック」には「家庭のように静かで落ち着いた雰囲気」と書いてありますが、まるでゴミ貯めのようなホテルです。

トニーは「何かあったら訪ねてくれ」と言ってシャーリーを1人残し、近くの別のホテルに泊まります。

シャーリーは気分を換えるために、部屋の外に椅子を出してカティーサークを飲みますが、馬の蹄鉄の輪投げ勝負に参加しないかと他の客に誘われて閉口します。で、結局街に出て災難に会うのですが・・・

その時トニーは部屋で「グリーンブック」を眺めています。今日シャーリーが泊まったホテルの説明が、あまりにもいいかげんなので疑いの目で見ている感じです。

そしてあるページの広告に目がとまります

「特別な人へ、特別なディナーを」

「Delightful dinners for particular people」

「この特別な人」がSpecial person(スペシャル パーソン)ではなくて、

particular people(パティキュラー ピープル)なんですね。

パティキュラーにも確かに「特別な」という意味がありますが、どちらかというと、良い意味ばかりではなく、「特定の」、「普通じゃない」、「変わった」とかの意味にも取れる単語です。

また、ピープルという言葉は、この映画の中で他のシーンにも何回も出てきますが、「民族」、「種族」、「人種」、「階級」という意味で使っています。

つまり表面的には「特別な人向けの、特別料理」という表現に間違いないのですが、「黒人専用の食事」とか、「黒人でも入れるレストラン」という言葉を、遠まわしに、しかも体裁(ていさい)良く言っているに過ぎないのです。

こんなところにも偏見が隠れているのです。

きっとそんなことを思いながらグリーンブックをながめるトニーに事件の知らせが舞い込みます。

続きは映画館でどうぞ。

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さて、これら微妙なニュアンスは翻訳では分かりません。訳者だって日本語に表現しづらいでしょう。

他にも微妙なニュアンスがたくさん含まれる映画です。英語の得意な人はぜひ、字幕を見ないで見てください。

まぁ、字幕を見ても、想像力のある人なら時代背景や微妙なニュアンスを受け止めることができるかもしれません。

面白い映画なので「娯楽もの」として見るのもOKです。最後に心が温まります。

ごきげんよう。


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著者かぶとたいぞう拝。


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